《UC0079.11.25》

 訓練は厳しいものであったが、戦艦での生活は異様な程に快適なものであったと記憶する。食事は宇宙食に違いないものの、質も量もそれまでの学徒生活ではありえない程の豪華さで、まさに「三食全てにおやつ付き」といった状態である。訓練以外での上官達の態度も随分と親切なものであった。たったそれだけのことで、人間……子供というのは単純なもので、学徒達の士気は益々上がっていった。
 艦隊へ移動するまでの期間に受けたシュミレーターによる試験の結果で、各自MSを振り分けられることとなった。
 当時67機しか製造されていなかったという新型量産機“ゲルググ”を受領した時は、素直にとても嬉しかった。それは周囲に漂っていた不特定多数の不安が吹き飛ぶ程で、無機質な大きな手に、背中を押されているような、そんな気分ですらあった。
 ゲルググの脚部が太いのを僅かばかりの乙女心が気にしたが、つまりそれはザクよりも遥かに屈強そうな見た目をしているということだ。事実、上官から配られた資料を見ても、ゲルググは当時のジオン公国の主力機であるザクⅡの性能を遥かに上回る、完全上位互換の機体となっていた。ザクどころか連邦の白い悪魔すらも超える性能だと鼻息荒く語るメカニックもいた程である。なんと頼もしいことだろうか。誰かの「この機体があれば何でもできる気がする」という声を飲み込むように、ゆっくりと頷いた。
 士官学校にすら行っていない学徒兵の自分がこんな貴重な機体をいただいてもいいのかと、喜びと興奮に震えた。そんな私に対して、ザクⅡを受領したイワンは少しだけ肩を落としていたのを覚えている。他にもドムを受領した友人もいたが、皆が皆、ゲルググを羨ましがっていた。
 上官が「期待の新星」だとグレーの装甲に触れながら笑っていたのを覚えている。それは多少は自分達にもかかった言葉でもあることに気付かない程馬鹿ではない。しかしその裏に隠れた真実には気付けない馬鹿だった。
 その時の私達はまだ先の事など深く考えてはいなかったのである。このゲルググが、何のために存在するものであるか。何故、戦闘経験も浅い学徒が――私が、ゲルググを受領したのか。