人類が、増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって既に半世紀が過ぎていた。地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
宇宙世紀0079、地球から最も遠い宇宙都市「サイド3」はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑む。この一ヶ月あまりの戦いでジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死に至らしめた。……人々はみずからの行為に恐怖した――。
そして、宇宙世紀史上最大規模にして、最大の犠牲者を出したと言われるジオン公国の巨大宇宙要塞“ア・バオア・クー”防衛戦。その熾烈を極める戦いにおいては、ジオン公国、連邦軍共に使える人材、MSを出し惜しみなく投入した――総力戦であった。
それは、学徒兵であった私達も例外ではない。その戦いからおよそ1ヶ月程前のこと。ア・バオア・クーへと向かう航路の途中で、何度かシュミレーターによるMS操縦の適性試験があり、その結果に応じて私達は各部署に振り分けられることとなった。私が配属されたのはア・バオア・クー“第224MS小隊”。そこには私を含め200人程の学徒兵が着任することとなる。16歳から18歳までと、学徒兵の年齢制限が急遽大幅に緩和されたこともあり、その殆どがまだ幼さを残す顔に自信と不安と織り交ぜた……私とおんなじ顔をしていたのを覚えている。
志願したもの、そうでないもの、それぞれ色んな思惑を持った学徒達が集まった。女子がいないわけではなかったが、比率はやはり低く、着任したての頃の私は明らかに孤立していた。軍に入ったら命は捨てたものなどというものもいるが、そういう場所だからこそ人との繋がりを求めてしまうのはしょうがないことだろう。そんな中で唯一気が合ったのは、イワンという、自ら学徒に志願したにしては些か優しすぎる少年であった。
「弟達がいるんだ。まだ小さくってさ……もし、このまま連邦との戦争が終わらなかったら、いつかはあいつらも戦争に駆り出されるんじゃないかって思うとね」
「そんな、戦争はこれで終わるよ。このア・バオア・クーで、きっと……」
気休めでしかないその言葉をあまりにも軽く口にして、本当は私自身なんとか今の現状を飲み込もうとしていたのかもしれない。
「君は? どうして志願を?」
それまで床を見つめていた丸く青い目玉が私を捉えた。表面に映るのは、ただシンプルな興味心であるとは思えない。
「大体、他の人達と同じだよ。他に行くところもないし……弔い合戦みたいなもんかなぁ」
「誰か……大切な人を?」
「うん、お父さん。地球方面軍にいたの……木馬(ホワイトベース)にやられたけど」
「もしかしてそれって……ガルマ様の……?」
「そうだよ。ガルマ様の部下でね、ガウに乗ってた」
「ガルマ様の。凄い人だったんだね」
純粋な、誇りや権利のためのような志願ではない。私達のような子供が軍に志願する理由なんて、きっと二つしかないのだ。それは未来を守るためか、壊すためか。
戦争。すぐ隣にあったもの。そして今は目の前にあるもの。けれどそれがどんな形をしていて、どんなに大きく、恐ろしいものであるか、その全容を私達はこの状況になっても尚知らなかった。
「勝つんだ……。そうしたら、そうしたら僕……」
いつか地球へ行ってみたい。それが彼の夢だった。