「カードが俺を呼んでいる。ドローしてよと呼んでいる……天に瞬く星一つ! ご覧デュエルの一番星! ……俺が誰だか分かるか?」
「……沢渡だろ?」
「違う! ネオ、ニュー、沢渡だ!!」

 沢渡ってこんな面白人間だったか?
 先日の倉庫街での出来事といい、何かしらの因縁があるらしい遊矢対、沢渡ことネオ・ニュー・沢渡のデュエルが始まった。まさか登場シーンから風来のシレンで来るとは思っても見なかったが。相変わらずあくの強いデュエリスト程、やたら何かを吹きたがるらしい。いや、ハーモニカ吹いてる人とか、口笛吹いてる人とか、全然知らないけどね。うん、全然知らない。突然の頭痛に襲われつつも、首をヘドバンレベルに振って無かったことにする。隣で志島がびくっと跳ねたような気がするがそんなことは知った事ではない。
 それにしても、沢渡のせいで頭の中で杉並の旧街道の音楽がずっと流れていてまともにデュエルが頭に入って来ないんだけどどうしてくれるのかな。杉並の旧街道でどうたぬきを拾った時の勝ち組感は異常。どうたぬきというと最近なら某ゲームのあっちが浮かぶ人が多いのかもしれないが、私からすればどうたぬきといえばやはりシレンである。話が流れるように逸れたな。流石風来坊よ。すいません。
 沢渡は永続魔法、《修験の妖社》を発動した。特定の行動をする度にカウンターが貯まっていくタイプのカードだ。デュエルディスクでその効果を確認しようとするが、何分文章が多すぎて全部読み切る前にデュエルがどんどん先へと進んでしまう。とりあえず、カウンターが置かれる条件は「妖仙獣」モンスターの召喚または特殊召喚」。そして貯まったカウンターを任意の個数取り除いて、取り除いた数が一つならばフィールドの「妖仙獣」モンスターの攻撃力があがり、三つ取り除けば自分のデッキ・墓地から好きな「妖仙獣」カード1枚サーチできる。カウンターが貯まる度に社の中の蝋燭に火が灯るのが情緒があっていいな。

「モンスターを一気に召喚できるのは何もペンデュラム召喚の専売特許じゃねえぜ!」

 その言葉通り、沢渡は《妖仙獣 鎌壱太刀》、《妖仙獣 鎌弐太刀》、《妖仙獣 鎌参太刀》を連続召喚した。見たところモチーフは鎌鼬のようである。鎌鼬といえば、某漫画にも三兄弟で登場するが、基本的に三位一体で行動するという。一匹目が人間を転ばせ、二匹目が傷をつけ、三匹目がその傷を治す。やはりそれぞれのカードがその特徴を受け継いでいるようである。
 あとかまいたちといえば、おい、かまいたち、いやお前たち!って奴だ。嘘でしょ伝わらないかな、柳○慎吾の最高のギャグなのに。あの人芸人じゃないんだよ。
 先日のユートとのデュエルの時は「氷帝メビウス」を使用したアドバンス召喚軸のデッキを使っていた沢渡だが、今回はどういう訳か、また一風変わったデッキを使っている。「妖仙獣」というカード群は初めてみたが、なるほど、それであんなシレン風の格好をしていたのかと納得いった。正直、エンターテイメント的には有りじゃないかなと思った。すぐに脱いだけど。私のようにまだまだデュエルに疎い人間からすれば、見た目から馴染めるのは有り難い。これで妖仙獣ももっと売れるんじゃ無いかな。カードの相場なんて知らないが、大会優勝デッキや活躍した汎用カードは高騰化するっていつか刀堂が言っていたような気がする。
 そんなことを考えて、ただじっとデュエルを眺めていた。黒咲やら志島達やら(彼等に関しては相変わらず何の気無しって顔で隣にいるが)のことをなるべく考えないように、デュエルに集中しているフリをしていたのである。

「あいつのあの自信はどこから来るのかしら?」
「一度負けているくせに」
「それはあなたも同じでしょ」
「……」
「まぁまぁ。……でもこれは何かあるぜ、きっと」

 三人とも、沢渡を自分たちよりもどこか下に見ているのはなんとなくその観戦姿勢から察していた。確かに沢渡は腕は一流なのかもしれないが、どこか、そうなりきれていない節がある。けれど、それは性格の問題であって私からすれば皆桁違いの実力者達だ。特に沢渡に関していえば、むしろその性格だからこそあの三人組もなんやかんや言って、沢渡の下についていたいと思うのだろう。トライブフォースの時の掛け声も綺麗に揃ってたもんな。……トライブフォースとは?
 遊矢のフィールドのペンデュラムゾーンにモンスターが設置される。派手な演出とともに飛び出してくる彼のモンスター達を見て、さながらペンデュラム召喚はモンスターハウスだな、と一人呟いた。未だシレンを引きずりネタにしつつも、その光景に息を呑んだのは言うまでもない。先程の沢渡の連続召喚も吃驚したが、こちらは同時に召喚というのがやはり恐ろしい。更に盛り上がる会場に、遊矢の笑顔が大画面に映し出された。ふと、デニスもどこかでこの光景を見ているのだろうかと想いを馳せる。彼は、ペンデュラム召喚にとても興味があるようだった。
 このデュエルが始まる前は、あちこちからペンデュラム召喚の存在自体を疑うような声も耳に入ってきたが、実際目にしてしまえばこれだ。手のひら返しはお手の物よ。なんて、私も人の事は言えない。というのも、私自身ペンデュラム召喚は、まだ遊矢と出会って間もない頃、いつかの遊勝塾で見た時以来である。一度に複数のモンスターの召喚が可能になる、それが、ペンデュラム召喚。あの時はデュエルのルールの基礎すらも理解できていないような、それこそ第9期どころか第1期のノリでゴリ押ししていた時には、その凄さをよく理解出来ていなかったから、今が初見といっても差し支えない。
 ――そういえば志島も、遊矢のこのペンデュラム召喚に負けたのだろうか?ちらりとそちらに首を動かすと、案の定といったところか。少しだけ眉をひそめてじっと一点、遊矢だけを見つめているようだった。
 遊矢のペンデュラム召喚の成功により、最高に盛り上がったデュエルの中、沢渡が遊矢に対し気になる発言をした。「お前はこれからペンデュラム召喚の恐ろしさを知る」。

「……ペンデュラム召喚ってさぁ、遊矢しか使えないんだよね?」
「いや」
「え?」
「お前も知ってるだろ。レオ・コーポレーションが……赤馬社長がペンデュラムカードを開発してること」

 いや私知らんけど?

「榊遊矢が生み出したとされるペンデュラム召喚、それを狙っているのはどこの塾も同じだからな~。ペンデュラム召喚を使えるようになるぞ! って売り出せば、新規塾生はどんどん集まるだろうし」
「それで理事長は遊勝塾を取り込もうとしたんだけどね……この話はこれ以上止めるとして」

 あなた負けたしね、と真顔で言葉のナイフを突き刺す光津さんに、志島もいい加減慣れたのか「はいはい」と適当に流していた。

「でも、結局、ペンデュラム召喚が出来るように“開発してしまえばいい”んだわ。流石社長というかなんというか……」
「そう。いつだって、それこそエクシーズ召喚コースだって最初に始めたのはLDSだよ」

 志島がちらりとこちらに視線を向けた。それくらい知っているよな?という顔だった。勿論知っている。それこそ、エクシーズ召喚コースが生まれたばかりの時に、私の兄はLDSに入塾したのだ。

「あの時も、遊勝塾の時もペンデュラム召喚で榊遊矢を征したのは赤馬社長だった。……あの時はまだ、不完全なペンデュラムだったみたいだけど」
「え……? あの人もペンデュラム召喚できるの? デュエル強いのは知ってたけど……」
「何言ってるのよ。赤馬社長は全ての召喚を扱えることで有名じゃない。だからこそ、自らの手でペンデュラム召喚の実験をした……」
「そんな話聞いたことがあるようなないような……。ってちょっと待ってよ。全部、っていうと……」

 そこまで口にして、隣に居る三人を見やる。一人ずつ指で差していきながら、私が知り得る召喚方を一つずつ唱えていく。

「エクシーズ、融合、シンクロ……」

 そしてペンデュラムと、フィールドを動き回る遊矢を最後に指差した。儀式は都合上割愛させていただくとして、それを、全て使うことのできる、赤馬社長……。

 

「バケモノかよあの人」