※少年ア◯ベパロディ。それ以外のパロディも多いカオス状態=いつも通り。
※スガオ君ポジションの無口な主人公
※何でも許せる方向け

~あらすじ~
親の転勤により大好きなヒルゼンくんと別れ、言葉も分からない遥か遠い地に引っ越すことになってしまった主人公。無口だけど地の文ではすごく喋る。必殺技は博愛固めだよ。お母さんに作ってもらったヒルゼンくん人形を肌身離さず持ち歩き、夜は人形とともに寝てヒルゼンくんを思い出しては枕を濡らす日々。引越し先で近所に住んでいた扉間くんに強制おままごとに参加させられ某おにぎり君のような生活を強いられている。その上何故か山の守り神であるマダラにも気に入られ、彼の我がままに毎日振り回されているとか。家に住み着いた役に立たない家庭教師のオビトさんもいるよ。

 

 

「夕飯はまだか」

 会いたくて会いたくて震えるのは、現在進行形でヒルゼンくんだけなのだが、会いたくなくても震えることもあるんだなぁなんて思いながら、母特製のヒルゼンくん人形を更に強く抱きしめた。
 扉間くんはとても怖い。目が鋭くて背も高くて髪もつんつんしてて、何より、私に会うといつも怒ったように眉をつり上げているのが怖い。でも扉間くんはすごく頭がいいのだ。最初は何を喋っているのかすらよく分からなかった。それでこちらもスルー出来ていたのだが、何を思ったか彼は私達の言葉を自力で勉強して、あっという間にぺらぺらと喋れるようになってしまった。言語の違いの壁すらも乗り越えて、今や同じ土俵に立たれてしまった。正直複雑な気持ちである。会話が出来ないままでいればそのうち飽きられていただろうに。言葉が喋れるからこそ、彼は今日もこうして話しかけてくるのだから。

「夕飯はまだかと言っている」

 二度目に聞いた声は先程よりも幾分か重く冷たいものだった。いよいよ目も合わせられなくなった私は何も言わずに視線を下に落とした。扉間くんはこんな見た目をしているくせに趣味がリアルおままごとらしい。他の男の子達みたいに豹でも虎でも狩ってくればいいのに。……などと絶対口にしては言えないので今日もおとなしく山や森に散らかっている石や花を掻き集めて、私は“夕飯”を作るのだ。まだ太陽も私の真上でその存在を主張しているが、彼が夕飯と言えば夕飯だし、朝食といえば朝食なのだ。なおどっちにしろ“献立”は変える気がないのはせめてもの抵抗であったりする。
 ヒルゼンくん人形が砂で汚れるといけないのでそっと綺麗で大きめの石に座らせてから立ち上がると、横から小さく舌打ちが聞こえた。

「まだその人形を持ち歩いているのか……浮気は許さんぞ」

 じろり、と可愛い可愛いヒルゼンくん人形を睨みつける扉間に少しだけむっとしつつも何も言わない。浮気、だなんて。おままごととはいえ、ぬいぐるみに嫉妬する夫程クソ面倒なものはないだろう。もしかすると彼の中ではぬいぐるみを「三人目」としておままごとのメンバーに加えているのかもしれないが、それはそれで止めてほしい。こんなにドロドロした昼ドラ臭(どころかたまに死臭すら)するおままごとに純粋なヒルゼンくんを巻き込まないでほしい。以前、死人を蘇らせる儀式みたいなことを一緒にやらされた時は「コイツ本気で頭おかしいわ」、と。やばいぞ、と。あの時程、彼と縁を切りたいと思ったことは無い。……察しの通り、ご近所である時点で相変わらず関係は続いているが。

「……そう怯えるな。いい加減慣れろ」

 もっと普通に接してくれれば、こんな風になることもなかったのだと彼は気付いているのだろうか。いや、賢い彼のことだから、それすらも理解した上での発言なのだろう。
 とはいえ扉間くんは顔は怖いが女の子に対して暴力に走ることは決してないのでそこは安心している。先述の通り彼は賢いのだ。どちらかというといつの間にか外堀を埋めていく陰湿なタイプ。いつかヒルゼンくんのいる町に戻るんだとそんな夢に胸を膨らませる私の希望を片っ端から摘み取っていく……のではなく、一箇所に一旦まとめといて一気に燃やすみたいな……そんな外道……みたいな。事実、ヒルゼンくん宛に送ったつもりだったハガキが、全て扉間の手に渡ってわざわざ自分たちの言葉に翻訳してから送られていた。なんてことが発覚したときは、その事実に理解が追いつかなくて頭が真っ白になった。そしてヒルゼンくんから「もうすっかりそっちに馴染んでるんだな! 元気そうで何よりだ! 何書いてるか分かんないけど」と懐かしい文字で書かれたハガキが届いた時、私は一日中泣いた。外堀から埋められとる。
 それに私に扉間以外の友達ができないのも―自分がまだ碌にここの言葉をはなせないことは抜きにしても―扉間のせいであるとしか思えない。彼が他の近所の子達に何か吹き込んでいるのを私は確かに見た。何を言っているのかは悔しくも分からなかったが、それ以降、扉間以外に誰も遊んでくれなくなった。やっぱり完全に外堀埋められとる。
 要するに彼を敵に回した時点で人生ゲームオーバーなのである。きゅうきょくキマイラかよ。だが彼の場合はきゅうきょくキマイラのようなたったひとつの弱みすら見当たらないのだから、もっと恐ろしい存在かもしれない。なんて、そんなことを思いながら、私は扉間を置いて一人山の中へと足を踏み入れた。

「ここで会うとは奇遇だな」

 そういえば扉間の弱み……ではないかもしれないが、あの年中仏頂面を一瞬にして嫌悪感で塗り替えることの出来る唯一の存在がいた。それが今目の前で右手を木に、左手を腰に当てた謎のポーズで待ち受けている自称山の守り神のマダラさんである。山に入って3分でこの人と遭遇するなんて、はじめてじゃないだろうか?インスタントラーメンかよ。

「今日はあの猿の人形は持っていないのだな?」

 そして、私のヒルゼンくん人形一代目を初めて見た際に、かの有名な「中身は綿だろうか……綿だった」のくだりを素でやってのけた唯一の存在である。あの時は何が起きたのか分からない所謂ポルナレフ状態に陥り、ひかえめに言って頭がどうにかなりそうだった……。あれを真顔でやれる人間が他にもいただなんて……曽良にだけ許される特権かと思っていたがどうやらそうではないらしい。このところライナスの毛布の如く、肌身離さずヒルゼンくん人形を持ち歩くことに最早快感すら覚えかけていた私だが、今回は人形を置いてきて良かったと心から思えた。たまたまとはいえ我ながら正しい判断だったと思う。
 私は軽く彼に会釈をして、そのままその横を通り過ぎようとした。が、その瞬間に腕を掴まれ先に進めなくなってしまった。そしてただ一言、「今日は何をする?」。あなたとは何もしません。
 それにしても何で山の守り神が山の麓まで降りてきてるんだろう。麓どころかほぼ裾野だよここ、山守れよあんた。そもそも神様ってこんなに人間と頻繁に遭遇してて良いのだろうか?最初こそ尊敬と畏怖の念を抱いていたが、エンカウント率が異常に高いせいで神特有のスキルであるはずの希少価値が消滅した。気分としてはサファリゾーンでケンタロスとしか会えない……みたいな。
 以前、誘拐されかけた時に、自分の身を守るためとはいえ彼に石を投げたことがある。ゲームならばここで相手が捕まえやすくなる代償に逃げる確率がぐんと上がるのだが、ゲームはゲームだった。まさか仕返しに隕石を落とされるとは思わなんだ。いや誰も思わないでしょう普通。「2個目はどうする?」という彼の声が忘れられず今でもたまに夢を見る。あの時、現実はそう甘くはないのだと齢◯歳にして思い知らされた。ちなみに隕石落としはおふさげだったようでその後空に返していたようではある。神様ってすごいな~。神様のジョークってすごいな~ついていけない。
 せめて親しみやすい神様なら(それはそれで微妙だけど)、私も笑顔で挨拶できたのだろうが、先述のような人物のため最早畏怖しか残っていない。

「隣の山まで競争でもするか?」

 私は静かに首を横に振った。

「何、嫌か。仕方ねェな……俺がおぶってやるから行くぞ」

 どの選択肢を選んでも結局同じ展開になるクソゲーかな?と小首を傾げてみても何も変わるはずはない。前にも同じようなことがあった気がする。いやあったな。そしてまた爆走する彼の背中を濡らす自信しかない。結局恐怖故に何も言えない自分が一番悪いのだ。そう、自分が悪い……と、わかってはいても――。

「泣くな、泣くな」

 そう言う彼は下卑た笑みを浮かべているのだからやってられない。神様だから何やっても許されると思うなよ。

*

 夕闇の中、息も絶え絶えに夕飯という名の雑草や石を持って扉間の元へ戻ると、そこにはもう誰もいなかった。そしてヒルゼンくん人形が地面に埋められていた。その日はやっぱり泣きながら家に帰った。
 オビトくん、と床に転がる巨体をつつく。どうしたら、扉間とマダラさんを追い払えるかな。家庭教師なら、ヒントでもいいから何か教えて欲しいものである。

「どうした、甘えたいのか? いいぞ、いつでも俺の胸に飛び込んで来い!」

 今度はちゃんと言葉に出したのに。言語を教えてくれるはずの家庭教師とまったく言葉が通じないの何でなんだろうな。うう~と情けなくも唸るようにまた泣き出した私を、オビトは何を勘違いしたのか抱きしめてきた。


 1ターンはひるませるくらいのつもりで頭突きした。

タイトルロゴ:七子様作
素敵なロゴをありがとうございました。