※IF。あるかもしれなかった未来。というよりは連載前に考えてた没展開。遊矢病み気味なので注意。



 もう嫌だと、少女の口から溢れた言葉。表面に貼りめぐらされていた箔が、ぽろりと剥がれ落ちるような音がした。周りの人々の反応など、今の少女にはどうでもよかった。

 彼女には持って生まれた才能などなかった。兄のデッキを手にしても、それを操るだけの実力が伴っていなければ意味はない。その場所にいる意味もない。今まで渡っていた細い綱は、自ら断ち切った。ただただ、亡き兄と比べられることに疲れてしまったのだ。それだけのことである。彼女は彼女であり他の誰でもないし、それは彼も同じだというのに。

「お前、LDS辞めたって本当なのか」

 心配そうな瞳ではあったが、どこか期待も含んだ少年の声を鼻で笑う程には、彼女はねじ曲がってしまっていた。少女が肯定の言葉を紡げば、少年は少女に見えない角度で嬉しそうに口を緩ませる、彼のねじも少し、曲がっているのだろう。

「ずっと苦しそうだったもんな……」

 その心に擦り寄るように、少年は眉を下げてみせた。可能な限り優しい声で、彼は続ける。

「俺も、なまえの気持ち分かるよ」

 少年はそっと、少女の手をとる。少女の手は冷たかったが、それでもよかった。
 自分と同じなんだということを彼女に知らせたい。今ここで、同じ場所に立っているのは間違いなく彼女本人と自分だけであるということを。そして今、こんな風になってしまった彼女を支えているのは兄でも他の誰でもない、自分なのだと、その事実を、優越感を、自分にも刻み付けたかった。

「それなら、俺と」
「榊は、違うよ」

 たった一言、そう告げた少女の目をみて、彼はサッと顔を青くした。それだけではない。体が、上から下へと凍り付くように冷えて、固まってしまう。彼女の手の冷たさが、自分にも伝染していくような感覚。
 これはいけない、彼は即座に感じ取った。彼女の視線は、今まで同じ位置に経っていた者を見るそれではなかった。軽蔑によく似た何か、それは劣等感の塊。その目が意味するものを、少年はよく知っていた。いつも見ていた。その目は、彼女が彼等に向けていたものと同じ。

「君はもう私とは違う」

 少女はすでに、少年にすら劣等感を抱くようになってしまっていた。