彼女は一見おちゃらけたただの馬鹿に見えるけれど、その内面の、炭のような脆さにはもう皆気付いている。プライドからなのか恥ずかしさからなのか、彼女はそれを必死で隠そうとする。そのことに気が付いてしまった僕たちもまた、彼女に悟られないよう隠し続け、気付いていない振りをする。
 兄とは違うと言いつつも、一番「自分」を隠し否定しているのは彼女自身なのである。
 あの子にもっと頼ってほしい。今はいない人に縛られることなく、今隣にいる僕たち、私達を、俺を頼ってほしい。利用されたっていい、踏み台にされたっていいのである。その手を差し出してくれるのなら、何があっても絶対に離したりしないと誓える。見返りなんて求めていなかった。それが、友人として仲間として、当然のことであると思っていた。ただ、その手が、その目が、こちらを向いた事は未だ無い。それが、裏切りのように感じてしまう俺達の方がおかしいのだろうか。

 あの目はいつも過去ばかりを見ている。それがとてつもなく憎らしいし、何よりも悲しい。弱いくせに、一人じゃ何も出来ないくせに、どんな状況に陥ろうと、彼女は助けを求めない。その真意だけは、未だに理解が出来ないのだ。
 結局ふらつく彼女を今もなお支えているのは、兄の影。そんなものに嫉妬している自分も嫌になる。
 彼女が自ら助けを求めるのを、僕たちはただ待っている。まるで暗黙のルールのように、皆が皆ただじっと見つめている。それがおかしいことだと言われようとも、こちらから手を差し伸べることはしない。けれどももし、彼女が誰かを選んだのなら。そのときはお互い素直になれるのかもしれない。