※メタ発言有り。本編9話以降の話。
レギュレーションの内容は執筆当時のものになります。
リミットレギュレーションシリーズのはじまり。


「すっごく恐る恐る、本当に震えながらリミットレギュレーション見たの。改定の時期が近付いて正直ビクビクしてたんだよ……そろそろ帰ってくるんじゃないかってな!!」


 ここはLDS内にある生徒用の休憩所。白い壁に大きな窓とカーテン。本棚と、幾つかの机と椅子。そして自販機が置いてあり、ここでの飲食は許されている。まさに生徒達の憩いの場である、らしい。休憩するなら家帰るわ精神の私は滅多に来ないのでなんとも言えないが、塾の休憩所にしては立派すぎるくらいの内装で、確かに、居心地は悪くないと感じた。


「いきなり何の話だ?」


 言葉の後に疑問符はついているものの、さして興味はないのだろう。自販機で買った缶ジュースの食品表示を見たまま視線も寄越さない刀堂に若干顔を引きつらせつつ続ける。いつの間にか握りつぶしてしまっていたプリントを再度広げる。その間も続くこの震えの原因は、なにも怒りだけではない。
 そもそも何故刀堂にこんな話をしているのかといえば、ただそこに彼がいたからだ。ジュースの食品表示を見てるやつほど暇な人間がいるだろうか。いや、いない。山があったから登った的感覚で話しかけられて彼も迷惑だろうが、そう理解してはいても今のこの気持ちを落ち着かせるには誰かにぶちまける他方法が見つからなかったのだ。かといってLDSで関わりがあるのはほんの数人であるし、そのうちの一人、志島からは最近妙に避けられている。なんとなく理由は分かっているのだが、それは今は割愛する。故に私が話せる相手は今、刀堂しかいないのである。友達少ないって?笑え。


「多分北斗はお前の事、友達と思ってないけど」
「今明かされる衝撃の真実ゥ。いや……私だってあいつのこと友達だとか思ってないし……」


 第三者に心読まれた上にそんなこと言われて地味にショックとか受けてないし……!しかし食品表示見たままよく分かったね君。確かに面白いよねそれ見るの、分かる分かる。私の話よりそっちの方が面白いという遠回しな嫌みか?


「まぁ、そういう意味でいったんじゃねぇんだけどな」


 続く彼の言葉の意味は良く分からなかった。地味なショックは続いたままであるが、私はそれよりも前に、もっと大きな衝撃を受けていたのである。広げたプリントを刀堂にこれでもかと押し付けると、流石に驚いたのか彼の肩が跳ねる。


「下まで見たらしれっといたんだよ。制限解除の欄に。案の定だったよホーネット。お前このタイミングで帰ってくるとかほんと」
「ああ……リミットレギュレーションの話か。良かったな、3枚揃って」
「良かった、じゃないよ刀堂!」


 正直ホーネットとダンセルの強さ、規制をかけられていた理由がいまいち理解出来ていないので、この事態がどれほどのものかも分かってはいない。どっちにしろまだダンセルの代わりを入れなければいけないので、私としては状況はあまり変わらないとさえ思っている。え?竜が逝った?何のことだか……。
 ただ私が言いたいのはひとつ。
 神妙な顔で、「空いた穴を埋めなくては……」とかいう中二くさいこと一人でやってたんだよ私は、つい最近まで。分かるか刀堂この気持ちが。お前には分からないだろうな。


「こちとらホーネット枠を色々考えてデッキ構成してた最中だったのに……」
「へぇ、例えばどんな?」
「いや……よくわからないから昆虫っぽいのとりあえず入れておこうかなって……馴染むかなって……入れてた。うん、それなりに考えてたよ」
「クソじゃねぇか。ちゃんとカードの効果見て、相性も考えろよ」
「……なんかデザイン似てるし、当たり障りなさそうなんだけどな……。気をつける」


 お前なぁ、と呆れたような声で言うものの、その続きを言う気力すらなくなってしまったらしく、あからさまに話題を変えられる。


「しかしすごいタイミングだよな、連載はじめた直後に」
「連載とかいうな」
「悪い悪い。……しかしいくら制限解除されようと、お前には勝てる気しかしねぇな」
「普通今そういうこと言う?」


 しみじみと続けた彼に、私は怒りよりも呆れが先行した。
 薄々勘付いてはいたけど、刀堂ってたまにデリカシーないというか、オブラートに包まないでこっちに思ったことを剛速球でぶん投げて来る時がある。志島がチクチクと刺して来る針とするなら、刀堂はシンプルな打撃、のような攻撃。本人に悪気は全く無いようであるし、ある意味で一番たちが悪いかもしれない。


「くっ……甲虫装機を使えるようにさえなれば……」
「……大会まで時間無いんだし、デッキ自体使いやすいのに変えるのも手だぜ。そもそもお前、エクシーズ出来るのかよ?」
「ううん。チュートリアルとかではあるけど、自分のデッキや……このデッキでは無い。難しいよね」


 口に出してみて、その情けなさを改めて自覚する。エリート御用達のエクシーズ召喚コースでありながら、エクシーズ召喚が出来ない人間というのは、他のコース生徒から見ても反感を買うのは当然だろう。
 私のデッキに至っては、エクストラデッキなんて存在してなかった。かろうじて理解出来たアドバンス召喚で場を持たせるのが精一杯だったのだ。……これバレたらエクシーズコースの人達にしめられる。


「やっぱな……。で?」
「で? ……って何」
「何か言うことは」
「せめてダンセル返して一枚でいいから」
「贅沢いうな」


 女子の鳩尾にパンチ決める刀堂って、やっぱりデリカシーないわ。


「……俺、エクシーズモンスターなら余ってるぜ? Xセイバー以外は殆ど使わねぇし」
「えっ、シンクロモンスターとエクシーズモンスターって併用できないの」
「いや、出来るけど。そうじゃなくてだな……」


 それならシンクロもエクシーズも融合も混ぜた方が強いのでは?と、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。刀堂がそれをしないということは、何かしら理由があるのだろう。シンクロコースだからシンクロだけしか使ってはいけないなどというルールは聞いたことがないし、単純に、それこそ彼が言ってたように、お互いの効果の相性の問題なのかもしれない。
 3種が混ざったデッキを使うデュエリストっているのだろうか。あ、もしかして総合コースがこれに当たるのかな。


「……何が何でも助けは求めないんだな」
「は?」
「少し北斗の気持ちが分かった気がするぜ」


 なるほどなぁと頷いて、勝手に一人で納得する刀堂に、疑問符を浮かべずにはいられなかった。


「変なの」
「お前がな」


 窓の外を眺めつつ、未だに帰ってこないダンセルって一体何なんだろうかと思いを馳せる。そういえば、最近トンボを見かけなくなってしまったなぁ。




あとがき:
制限解除おめでとうございます。リアルタイムのこの感じ(3年前からの栄枯盛衰感)を残したいので、5~6話は修正しません。デュエル描写が今現在殆どないので説得力皆無ですが、あのデッキにもしれっとホーネットがおかえりしていることでしょう。ダンセル返して。(あとがき追加→2015/3/20)