ランサーズにぶちこまれた一般人

月影(arc-v)

 

突如街に現れた「アカデミア」という融合使いの集団によりMCSは中止になった。その時点でついて行けなかったのだが、なんと、ランサーズとかいうよく分からないもののメンバーにまでされてしまった。ただ、アカデミアとの戦いに生き残ったというそれだけで、だ。そして、なんとなんと、この世界とは違う次元が幾つかあるらしく、私たちはその中の「シンクロ次元」に行かなければいけないらしい。どういうことだってばよ。
正直いうと、LDSの生徒でもない私はまだ赤馬理事長等の言うことを簡単には信用できなかった。特にあの眼鏡、時折何を考えているかわからない程眼鏡が白くなる。アニメか!

「必ず柚子を助ける…」
「そうだ、遊矢、俺がついているぞ」
「俺様の力があればランサーズも安泰だなぁ? この沢渡シンゴに任せろ!」
「敗者復活がよく言う」

しかも、私以外のランサーズメンバーはあの眼鏡の話を鵜呑みにしているようだ。というか、私以外の者は皆顔見知りのようであるから、ここですでに何かのドッキリなのでは?という気がして止まない。身内ネタに巻き込まれる事ほど迷惑なことはない。何より「え……おたくどなた……?」的な目で見られた時は心が折れそうになった。お前等の濃いデュエルで存在かき消された人間さんだよ。特にそこのトマトとコートのお兄さん、お前等だよ。

「シンクロ次元への出発は明日だ」

私は、完全に孤立していた。このままではいけないと、流石に分かった。アカデミアとの戦争が本当なのか、次元の存在が本当かどうかは今は置いておこう。とにかく、この異様な事態で一人でいることは何より危険である。いや、不安なのだ。このままでは。っていうか明日とかなんなの馬鹿なの?転校翌日に修学旅行に連れて行かれる気分だよ。
辺りを見回しても、既にグループができてしまっていて、入りづらい。唯一の希望であった、もう一人の女の子は赤馬社長とその弟と共に何処かへ行ってしまった。男子しかいないこの状況。どうするべきか。一応、私の他にもコートのお兄さんが孤立しているけれど、キツイ。無理、怖い。コミュ症の私にあれはレベルが高すぎるのでスルーした。こういう時に限って、せんせーい、◯◯ちゃんがひとりでーす!とかいう泣けるお節介をしてくれるような人もいないようである。皆、各々に自分のことでいっぱいいっぱいなのだろう。
ふと、もう一人孤立している人間がいることに気がついた。見た目的にも大会で浮いていた、忍者の片割れである。見た目に問題はあれど、見た感じ、コートのお兄さんよりは話が通じそうである。そう思った私はそろりそろりと彼に近付いた。

「あの、君、確か忍者デッキ使ってたよね?」

無言。え?何?やっぱりガチ忍者(推測)には、「ドーモ。ニンジャ=サン」って話しかけないとダメなの?じゃないと名乗ってくれないの?超面倒なんだけど。

「あの……忍者くん?」
「……拙者に話しかけているのか?」
「そうだよ」

また、会話が切れてしまった。周りはわいわいと話しているのもあり、この空間の温度差がひどい。いたたまれない、が諦める訳にもいかない私は、必死に話題を探し……ふと自分のデッキを思い出した。何だ、最高のネタがあるじゃないか。

「私、六武衆デッキを使ってるんだけど!」
「そうか」
「だからかな、なんとなく、この中で一番気が合いそうな気がして……」
「そうか」

会話のキャッチボールという言葉を彼は知っているのだろうか。君達忍者には手毬とかいったらいいのかな?ジャパニーズテマリ?OK?問いかける言葉全てを手裏剣で撃ち落とされているような気分である。しかし私はめげないくじけないドラゲナイ。

「忍者ってお殿様に忠誠を誓ってるんだよね?この場合、それはあの社長かな?」
「……」
「六武衆もお殿様に仕える戦士達なんだよ」
「御主、よく喋るな」

お前が喋らないからな!!とキレそうになる気持ちを寸でのところで押し込める。もう心折れたんだけど。超細プリッツ並に私の心折れやすいから気をつけてほしい。しかし、まぁ、無視はしない当り、悪い人ではないのだろう。ただ無口なだけか、それとも私と同じコミュ症かな?そう思っていると、はじめて彼から言葉を紡いだ。

「……我等は零児殿の駒だ。特に拙者はそのためだけにここにいる」
「れい……ああ、あの胡散臭い社長か」
「無駄な交友関係など、足かせになるだけだぞ」
「……無駄ねぇ」
「それに御主は女だ。一番に狙われるだろう」

……なんだ、やっぱり忍者っていい奴じゃん。

「生憎、そんなお姫様みたいな可愛らしい女じゃないよ」

舐めてもらっては困る、と私はデッキをひらつかせた。塾トップの力は伊達ではない。自分で言うけど。

「……だろうな」

口元を覆う布のせいで、その表情は読み取れないが、おそらく、笑っているのだろう。赤馬社長に忠誠を誓う気はさらさらないが、彼となら楽しめそうな気もしてきた。

「えーっと、じゃあ、まぁよろしくね、サスケくん」
「……月影だ」
「アイエエ?」



back
© 2024 WORM HOLE . Powered by WordPress. Theme by Viva Themes.