「創始者が榊だっただけで、他の人間が扱えないという訳でもないしな」
「ああ、しかも沢渡のあの自信……もしかすると」
「そうでしょうね。でも何で沢渡が……」

 どこか納得いかない、といった様子で腕を組む光津さんに首を傾げつつ、視線をデュエルフィールドに戻す。まさか、そのまさかがあるというのだろうか。
 先程から沢渡が《修験の妖社》の効果を使い、特定のカードをサーチしている、ということを志島から教えてもらった。私はよく見ていなかったのだが、その中にペンデュラムカードも含まれていたのだという。ペンデュラムカードは、遊矢しか持っていないと聞いていたが、それを沢渡が持っているということは……十中八九、彼の後にあの人がいるのだろう。

「榊遊矢! 宣言通り、俺のペンデュラム召喚がお前を敗北に導く!!」

 沢渡の声が会場に響き渡り、観客がざわついた。対戦相手である遊矢ですら、その言葉に目を見開いていたが、志島というように赤馬社長のことがあるのか、心のどこかでそれを予感していたようで――少しだけ、笑っているようにも見えた。

「俺はスケール3の《妖仙獣 左鎌神柱》と、スケール5の《妖仙獣 右鎌神柱》でペンデュラムスケールをセッティング!!」

「これで沢渡が、ペンデュラム召喚に成功したら、あいつが三人目の使用者になる。そして……」
「おそらく、これからはLDSによってペンデュラムカードが量産されるでしょうね」

 自分の息を呑む音が、この騒がしい会場でもはっきりと聞こえたのは気のせいではない。

「烈風纏し、あやかしの長よ。荒ぶるその衣を解き放ち、大河を巻き上げ大地を抉れ!」

 会場の中に吹き荒れる風が、段々と渦を巻きながらごうごうと唸りを上げる。風でありながら「形として目に見える」程に、その勢いをさらにさらにと増していく。しかしその一方で、ある一定の域を出ない異様な規則正しさ。気付けば全ての風が質量を持って、沢渡の見上げるその一点に留まっていた。

「出でよ、《魔妖仙獣 大刃禍是》!!」

 そして、風の膜が弾け飛ぶようにして、その中から姿を現したモンスターに私は目を見張る。これが、ペンデュラムモンスター。

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《魔妖仙獣 大刃禍是》
星10/風属性/獣族/攻3000/守300
ペンデュラム・効果モンスター
【Pスケール:青7/赤7】
(1):自分フィールドの「妖仙獣」モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで300アップする。
【モンスター効果】
このカードはP召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードのP召喚は無効化されない。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのカードを2枚まで対象として発動できる。そのカードを持ち主の手札に戻す。
(3):このカードを特殊召喚したターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。
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 デュエルディスクにより、カード情報が自動的に更新され画面がスクロールする。同時に、沢渡が効果発動の宣言をした。《魔妖仙獣 大刃禍是》が沢渡のフィールド上に特殊召喚されたことにより、モンスター効果の(2)が摘要されたのだ。
 P召喚でしか特殊召喚はできないという縛りはあるものの、むしろP召喚であれば召喚そのものを無効にされることもなく確実に(2)の効果を発動できるということだろう。
 しかし、何、ペンデュラムモンスターってこんな、こんなぎっしりテキスト詰まってんの?っこっわ!!これ、デュエルディスクの自動検索機能があるから、そして当事者ではないからゆっくり閲覧出来ているが、デュエルでこれほどのテキストを持つモンスターを出されたらと思うと。(私が)効果を理解するまでにモタ……モタ……しそうな予感しかないぞ!うん!
 続けて詳細ボタンをタップすると、カードヴィジュアルが映し出された。ほうほう、Pカードってこんなデザインなのか、と興味深く見つめる。ペンデュラム・効果モンスターとして、それぞれの効果が枠を分けて記載されているようである。やっぱり文字がぎっちりだ。《深海に潜むサメ》を見習って欲しい。ヴェノミナーガ?知らない子ですね。

「まだだ! 俺はレベル6以上の「妖仙獣」モンスターがフィールド上に存在することにより、永続罠、《妖仙郷の眩暈風》を発動!」

 沢渡のターンは続く。彼がすかさず発動した永続罠《妖仙郷の眩暈風》によって、手札に戻ってしまうはずだった2枚のカードは、手札どころかデッキに戻ってしまった。せっかく遊矢がそろえたペンデュラムゾーンが、消えた。これでもう用意に大量召喚はできない。いや、それだけではない。デッキが、圧迫された。ドローで希望のカードを引ける確率が、低くなってしまう。恐ろしいコンボである。

「見せてやる! 沢渡レジェンドコンボ、妖仙ロスト・トルネード!!」

 沢渡はライフを支払い、更に永続魔法《妖仙大旋風》を発動してきた。ただのターンエンドではない、という言葉通り、鎌鼬三兄弟の効果、彼等が自分の手札に戻ることで、遊矢のフィールドのカードもデッキに戻した。続けて《魔妖仙獣 大刃禍是》も自身の効果によって、強風と共に沢渡の手札へと戻っていく。そして、遊矢の場に残っていた最後のモンスターもまた、デッキに戻されてしまった。
 (3)の、ターンエンド時に手札に戻るという、初心者の私から見てデメリットだと思っていた効果がこんな形で役に立つとは、少し感動である。

「沢渡にしては考えたな」
「ペンデュラムメタか……対策はしっかりしてきたって訳だ」

 相変わらず、志島や刀堂の中での沢渡の扱いの酷さは私からすると目に余るものがあるが……。いつかの沢渡との教室での会話でも、また倉庫でのデュエルでも榊遊矢を意識しているような発言をしていた。今思えば、あの「メビウスデッキ」も魔法カード扱いにもなるペンデュラムモンスターカードへの対策だったのかもしれない。

「沢渡のあのカード、志島の……《セイクリッド・プレアデス》みたいな効果だね」
「『バウンス』っていうんだよバーカ」
「ば、馬鹿!? むしろプレアデスの効果覚えてたことを褒めて欲しいくらいなのに馬鹿!?」
「あれだけやられてて逆に覚えてない方が凄いよ。何回僕のプレアデスに負けたっけ君」

 そんなの数えてないわ!本当に嫌みなやつだな!「意外と空気の読める男」こと刀堂が話をすり替えてくれなかったら今ここでお前にダイレクトアタックしてたわ。

「そ、そういえば真澄、お前もバウンス効果持ってるモンスター使ってたよな!?」
「えぇまぁ……持ってるわ。……ほらこれ、《ジェムナイト・アクアマリナ》っていうの」
「……うわぁ、綺麗なカード。っていうか、へぇすっごい! ジェムナイトってみーんな宝石みたいにキラキラしてるんだね。素敵だなぁ」
「フフン、そう。私の……大切なカード達よ」

 素直にそう言える君の瞳も綺麗なんだがとかいうクソ口説き文句を喉元でこらえつつ、ふと自分のことを思い出した。

「あ……そういえば私も『バウンス』効果を持ったモンスターカード、持ってるよ」
「へぇ、以外。でも僕のプレアデスには到底敵わないよ」
「知らねーようるせーよそもそもプレアデスと競ってないわ」

 私はストレージケースを開き、一枚のカードを取り出して光津さんに渡した。このストレージケースは薄く小型の物であるが、志島達に習ってここ最近、お守り程度に持ち歩いているのである。

「……気持ち悪いカードね。インヴェルズ……? 初めて見たわ、このカード」

 渡したカードを見た途端に顔を歪ませた光津さんに乾いた笑いがこぼれる。

「ひどいな、虫だし否定はしないけど。これ、家のストレージの中にいたんだけど……何か強そうじゃない?」
「まぁ、使えないこともないけどよ、でも甲虫装機にはいらないだろ」
「ふーん、そっかぁ」

 見た目凄く強そうだから、いつか使ってやってもいいぜと思っていたんだが、残念である。

「バウンスはあくまでも一時的な除去よ。でも他の除去効果に比べると対応できるカードが少ない……防ぐのが難しいのよ」
「必死こいて召喚した上級モンスターが手札やデッキに戻されたら殺意しか沸かないな……『バウンス』こわっ」
「そうだね。しかも使い方によっては自分のカードをバウンスすることで更なるコンボに繋げることも出来るからね。……けど、それは相手も同じようにバウンスを利用してくる場合もあるってことだから、使い時を見極めるのは大切だ」
「ほうほう。使い時を見極める……」

 よくわからんが『バウンス』はっょぃ!と頭の中に叩き込んでおいた。