デンジに勝てない

デンジ/pkmn

「負けた……」
「俺は勝った。これで6回目」

冷たい床に突っ伏して倒れる。即座に「やめろ汚い」などいう声が上から降ってきた。心配するな、かわいい清掃員さんが毎日掃除してくれているおかげで、このジムはとても綺麗だ。お前は何もしてないけど。そんな内部事情が分かるくらいにはここに入り浸ってるんで……と余計な事を考えた所為で更におセンチになってしまった。そんな私に、追い打ちをかけるように「そうじゃなくて床が汚れるからやめろ」などといってくる。失礼過ぎるだろ。仮にもこっちは敗者、傷心中だというのに。泣いてはいない。
私と同じように倒れたままぴくぴくしているビークインをボールに戻す。一瞬、彼女に睨まれたような気がした。幾度目になるだろうか、彼女の機嫌を損ねるのは。
少し暗くなったと思えば、私の上に彼の影が落ちていた。そのまましゃがみこんだデンジさんと、視線が合う。じっと私の顔を見たかと思えば、すぐにため息を吐かれた。

「他のトレーナーはパワージェムでゴリ押し出来たかもしれないが、俺には無駄だって何度も言ったろ……。だって俺めちゃくちゃ強いから……」

 

 うるせぇ。

 

「……なぁ、どうして他のポケモンを育てないんだ?お前そのままじゃ一生俺には勝てないぞ」

縛りプレイするには早すぎるだろ。なんて聞こえたが気のせいだろう。だってしょうがないのだ。私はポケモンを捕まえるのがド下手な上に、ビークイン一体育てるので経済的にいっぱいいっぱいなのである。本来トレーナー同士で正式対戦を行う場合、勝者は敗者から賞金をもらうというルールになっている。ジムバッジを持っている私の財布がそれでも一向に潤わないのは、“ギリギリでいつも生きてきた”からに他ならないのである。勝っては負けて、負けては勝って。着実に時間をかけて未来へステップしていったが財布はステップしてくれなかった。別に望んでそんな風に生きていたい訳ではないんだよなぁ……リアルよりバッジを手に入れたい年頃。
いっぱいいっぱいなのはそれだけではない。何より、共に旅をはじめて2年になるというのに一向になつかない。ビークインに進化してからさらにつれなくなったように思う。ビークインという種族の特徴なのだろうか、これは。女王様気質というかなんというか。そもそも私にトレーナーとしての才能がないだけなのか。

「もう一回……もう一回だけ……」
「……これからバトルの予定もないしセンターまで送っていってやる」

いつもジムトレーナー達に何言われても出ていかないくせにこういう時に情けかけられると、なおさら悔しい。

 

(リメイク)



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