「もうダンセルいいすぎて最早ダンセルがなんなのか分からなくなってきた」
「リミットレギュレーションの度に俺捕まえるの止めろよな」
アイスの棒をもごもごさせて、刀堂は心底面倒くさそうにそう呟いた。
またこの季節がやってきた。肌寒さも消え、日によっては汗もじわりと滲むようになりその日着る服に朝から悩まされる今日この頃。ところによっては桜の花も開花しはじめているというが、舞網にまだその花びらが舞ってくることはないため、実感は沸かない。
LDSの休憩室で、いつかのように対峙する私と刀堂はまた例のプリントを手に語り合うのであった。
「だって~刀堂しか話聞いてくれる人いないんだもんよ」
「かなしいな、お前って相変わらず。制限改訂の度にいつもそう思うぜ」
「もう何度目かな……不思議だ、出会って1ヶ月も経ってないはずなのにとても長い間一緒にいた気がする……。具体的に言うと制限改訂が今回含めて3回はあった気がする」
「気のせいだな」
刀堂刃のその名の通りと言ったところか、ばっさりと切り捨てられてしまってはこちらも深追いは出来ない。いやでも絶対……2回はこの話してるよね?その都度ダンセル芸人になってるよ私。その記憶は確かにあるのに。カレンダーの日付を見ても、やはり私が赤馬社長と対面してからそう経っていないはず。あっれれ~おっかしいな~?コナン君にもとけない迷宮入りの謎だ。というか迷宮入りさせといてくださいお願いします。
「ダンセルはいい加減諦めろよ。今もっと使える……彼岸でも組めばいいじゃねぇか」
「彼岸がどういうデッキかは知らないけど、それも今回で割と手足持っていかれたことだけは知ってるよわたし」
「真理の扉か。流石に騙されねーか」
私も少しは勉強したのだ。今の環境で何が強いかくらいは。ダンセルが戻ってくれば兄のデッキが全盛期の強さを取り戻すことも、勝利が今よりも確約されることも理解している。(この環境でやっていけるかどうか?知らん。そんなことは俺の管轄外だ。)いつまで殺虫剤の風呂に使っているつもりなのか。おい、起きろよ、と肩を揺すぶったら「死んでる……」みたいな展開だけは止めてほしい。可能性だけでも虫の息で生きていてほしい。虫だけに。
とはいえどこぞのエラッターさんのように変わり果てた姿で帰って来られても逆に困るので、ただ返せコールを繰り返すのも怖いものがある。芸人は計画的に。
行儀悪く食べ終わったアイスの棒をかじっていた彼が、それを捨てる為か立ち上がる。その様子を目で追っていると、そういえば、と思い出したように彼が声をあげる。
「真澄もチェインがいなくなって地味にショック受けてたな」
がこん、とゴミ箱に捨てられるアイスの棒。それを見届けてから、私はその言葉に首を傾げる。
「えっ、光津さんってロマン派じゃないの」
「基本はそうじゃねーの?でもたまにデッキに入ってたぜ、確か」
はじめて知ったなぁ。てっきりジェムナイト以外はデッキに入っていないのかと思っていた。カテゴリで揃えるデッキはロマンがあって個人的には好きだけど、光津さんのようなエリート勢からすればそれだけでは遣って行けない時もあるのだろう。
「それを言ったら遊矢なんて大概だけどね、かなりの数持っていかれちゃって、ハハ」
「落ち込むどころか俺なら海に身を投げるレベルだわ」
そう言って笑う刀堂に対して、割と本気で遊矢の安否が気になったので後で電話しようと固く胸に誓った。
「ところで電子光虫とは何だったのか」
「知ら管」