茂古田/お題は診断メーカーより。
流石にマナーは弁えているのか、決して音は立てないものの、しかし忙しなくスプーンを動かし続ける彼女に、僕はおもう。
「ねぇ、君って何で僕のことすきなの?」
「はぁ?」
「言い方が悪かったかな……どこがすきなの?」
二度目の質問に彼女は怪訝そうに眉を歪めた。なんだその顔。その間、数秒程だろうか。そしてまたすぐに、白さを取り戻しつつある皿達に視線を戻すのだ。おい、彼氏の話より目の前のオムライスかとブチ切れそうになるが、そこは耐えて笑顔を表面に貼りつける。そう、これこそが冒頭の質問をした原因なのである。
彼女が僕に会いに来る時は、決まって昼食をとりに来る時だ。それはなんやかんや付き合いはじめてからも変わることがなく、まるで僕よりも料理に釣られたと言わんばかりなのである。それはそれで嬉しいけれど、やはりもっと僕自身のことをみて欲しい。
(こんな質問をしておいてなんだが、逆に、僕が何故こんな女のことを好きなのかと聞かれたら、それはもう……なんとも説明し難い。)
とにかく、せっかく好きになった相手なら、胃袋だけではなく心も掴みたいとおもうのは当然のことだろう。
「どこがふきってひわれてもねぇ……」
それなのにもごもごとしゃべるこの女の神経はどうなっているのだろうか。
「食べ終わってからでいいから」
彼女は珍しくゆっくりと咀嚼をし、一口だけの水を飲んだ。そして久しぶりにこちらに向けたその顔はどこか真剣なもので……。
「……顔かな」
「……ああ、料理って言ってくれた方がマシだった」
「いや、未知夫が私のために料理作ってる時の顔がすきなんだよ」
だってすごく楽しそうで、と彼女は続ける。さも当たり前のように。彼女が見つめるテーブルの上のお皿は、どれも白に還っていた。
ああ、分かった。
「僕も、僕の料理を食べている時の君の顔がすきだよ」
誰よりも幸せを噛み締めている。
back