かわいいなぁ

ユート(と黒咲)。学パロというよりは平和なエクシーズ次元でのお話。

[su_spacer size=”30″]
すごいものを見た。と、思った瞬間、どん!というすごい音も聞こえた。

「……忘れてくれ」

よく晴れた日の、昼食後の5時限目の国語。確かに誰もがうとうとしてしまうようなある意味学生にとっては劣悪な環境であったことは確かだ。私自身、眠かった。いっそ教科書を立てて寝てしまおうかなぁなんてよからぬことを考えていた。けれども、しかし、まさか――あの優等生のユートが(駄洒落ではない)居眠りを、居眠り未遂をするなんて。今思い出しても頬が緩んでしまう程の、こくこくと揺れる頭の可愛さに私は目を奪われた。メロスがどうなろうとどうでも良いと思うくらい―いや、走るんでしょタイトルからしてとは思ってはいたけれど―それを音読するクラスメイトの声も聞こえなくなるくらいには、ユートに私の五感全てを持っていかれていた。すごい引力だった。だから、授業が終わり、彼の席へと弾け飛んでしまったのも仕方のないことで、別におかしくなんてないのだ。

「まさかユートが居眠りするとは思わなかったよ」
「今日はちょっと……疲れていたんだ」

机に突っ伏したままぼそぼそと喋る彼は未だに恥ずかしがっているようだった。それもそのはず、授業の最後の最後で結局耐えきれず机に頭突きをして、ちょうど黒板に文字を描いていた先生を飛び上がらせる程の音をあげたのだから。あの、でこが。正直笑われてしまうのも無理はない。そこは私も弁解のしようがない。
ふと視界に影が降りたのを感じて横を見やると、黒咲が何故かどや顔で立っていた。

「ユート、居眠りくらいがなんだ。お前はコイツと違って教師からの評判は良い。頷くフリをして目を瞑って堂々と寝れば誰も疑わないぞ」
「隼は黙っててくれないか」
「ちょっと、今なんてついでのように私貶したの」

表情は未だ見えないが、ユートは少しイラッとしているようである。何が面白いって黒咲自身はいたって真面目で、ユートがイラッとしていることすら気付いていないことである。ユートと妹とちみっこ達に対しては菩薩の如き心の広さを見せるのに、他の有象無象に対しては阿修羅みたいな理不尽さでぶっ叩く。私がその中に含まれているところも解せない。絶対くろさキッズになんてなってやらない。……っていうか黒咲あんた、後から(嫌でも視界に入るため)見てて国語の時間にそんな頷くようなところあるか?と思ってたけどあんたまさかあれ寝てたの?
ユートが大きくため息をついたのを見て、私は首を傾げる。

「そんなに恥ずかしい?」
「ああ……」
「ずっと見てたけど、笑ってたのは一部の子だけだよ?先生も逆に心配してたじゃん」
「それが人徳というものだ」
「黒咲はちょっと黙って」

下心満載で見ていた私が言うのもなんだが、皆レアなもんが見れたぜくらいにしか思ってないよ。きっと。

「ユート、気持ちは分かるけどもう次の授業はじまるよ?まだ眠い?保健室行く?」
「いや……もうばっちり目は……覚めた」
「そう……あっ、もしかして、でこに痕がついたとか?」

いや、と彼は俯いたまま頭を振る。くそ、これで一緒に保健室フラグと絆創膏を貸す女子力アピールチャンスを逃した訳か。いやでこに絆創膏は駄目だろ。
そんなことを私が考えていると知ってか知らずか、ユートが再び、今度は軽くだが頭を机に打ち付けたので何事かと視線を落とす。

「どうしたの」
「君に……」
「ん?」
「……君に見られていたことが、恥ずかしいんだ……」
「うん、まぁ、ユートをずっと見てたよね。いつものことじゃん」

何言ってんのと笑う私に対して、未だに顔を上げない彼がやっぱり可愛く思えたのは内緒である。



back
© 2024 WORM HOLE . Powered by WordPress. Theme by Viva Themes.