俺がサンタだ!

 今日はクリスマスイブ。つい最近までプールに入ってたような気もするけれど、誰が何と言おうとクリスマスイブである。クリスマスって誰の誕生日なんだっけ?そもそも誕生日だっけ?それ以前にどこの里から来た風習だったかなどなど気にかかることはたくさんあるけれどそんなことはどうでもいい。大事なのは、クリスマス=楽しいイベント。クリスマス=美味しいものをたくさん食べる日。クリスマス=こいび……サンタが来る日だ。うちにサンタは絶対来ないけどな。サンタじゃなくていいから誰か俺にリンをプレゼントしてください。
 友人の家でパーティーをした帰り、隣の家のおばさんから呼び止められた。何事かと思っていたら、なんと手作りのケーキを2切れ(俺とあいつの分だろう)も頂いてしまった。冷蔵庫には久しぶりに奮発して買ったチキンが鎮座して待ってる。最高かよ。今日の夕食を想像するだけで、今からでもよだれが溢れて来そうである。
 雪に足を取られつつも軽やかに家路につく。余程気分が良かったのか、何時もであれば例えあいつがいたとしても滅多に言うことのない「ただいま」を声高らかに発していた。しかし眼前に広がる光景に、開いたままの口が塞がらなくなる。
 環状に数十本配置された白い蝋燭(おそらく仏壇用)。その内側に綺麗に並べられた色取り取りのチャッカマン、さらに内側にはマッチ棒が。摩訶不思議通り越して不気味なサークルのその中央には、クリスマスツリーがそびえ立ち、いやそびえ立つだけならまだよかったのだが、ツリーに伸びる着火魔ンの手を見過ごす訳にはいかなかった。
 
 同居人が居間で謎の儀式をしている件について。

「ウワアアアァァ!! 何してんだテメェ!!」

 反射的に近くにあったティッシュケースを投げつける。ツリーに火がつく寸前に彼女の手にあったチャッカマンを弾き飛ばした。叫び声が少し裏返ったような気がしたがそんなの知ったことか。

「え? あ、おかえりオビト」
「おかえりじゃねーよ、まずは質問に答えろ」

 一旦、一旦ケーキを机に置いて落ち着こう。フー、フー、と息を大きく吐いて頭を冷やそうと試みる。本当は今直ぐにでもストリートファイター的にファイ!!してしまいそうになる心を抑えつつも、まずは理由を聞こう。理由によっては今から行われるのはただの暴力ではなく制裁というなの正当防衛になり得るのだから。近所に警察が多いから下手なことはできない。何があっても狼狽えない心の強さと訴えて勝てる強さ(証拠)を持ち続けたい。

「お前、何してる?」
「今日クリスマスイブじゃん?」
「質問に質問で返すんじゃねぇ~。だからどうした」
「これぞチャッカマン一族に伝わるクリスマスの儀!」

 これぞじゃねぇよ、と足下に立ち並ぶ蝋燭を蹴り倒した。チャッカマンはそれを追うように倒れつつ「ああっ! こっちにも火をつけないといけないのに!」などと宣っている。畳の上で蝋燭を燃やすとかお前正気か?いやこれが正気なんだろうな、と思えてしまうから尚の事怖い。ツリーも燃やそうとしてたしな。

「お前の一族って阿呆の中でも人畜有害な阿呆でたち悪いと思ってたけどよ……今回ばかりは言っていい? 何考えてんの?」
「我等が主の誕生日をお祝いしてんのよ」
「……お前、宗教そっちだっけ? 隣人どころか同居人すら慈しんでないお前が?」
「宗教ってなに」
「は? いやだってクリスマスっていったらあの……名前忘れたけどあの人の誕生日だろ? あのー……」
「うちはマダラの誕生日でしょ?」

 ……。

「あ、そうなんですか?」

 今もの凄くどうでもいい情報を得た。

「あ、そうなんですか? じゃないよ。うちは一族のくせにそんな事も知らないの? ぷーくすくす。そりゃ伝統の儀のことも知らんで当然ですわな」
「……わかんねぇよ」
「ん?」
「『うちはマダラ』の何がいいのかも分かんない。ただこじらせて回りに迷惑かけただけじゃん。(※このことばをすうじゅうねんごまでよくおぼえておこうね!)そいつからもらった『チャッカマン』の何がいいんだよ? スーパーで買いました感満載のシールがついてる普通のチャッカマンじゃねぇか。犯罪者がかっこいいのか? 正気か? チャッカマンを定期的にくれるおっさんって字面じゃあただの変態じゃねぇか! それに屈するお前もお前で分からないし、そもそもお前の一族が意味不明。つーかうちはマダラが生きてる訳ないじゃん! お前等が何でそんな頑にマダラのことを新興してるのか分からない、聞けば聞く程謎が深まるんだよ! 分からない分からないわからない分からない……。ちゃんと言ってくれなきゃ分からねぇよ。てめぇの言う事は……昔から、何一つ、これっぽちも、分かんないんだよぉおおおおーーーー!!」

 

「はい。満足しましたか。流行ってるもんな」
「うるせぇ俺の本心だ」
「まぁつまりこの儀式をすることでサンタクロースに扮したマダラ様を召喚できるわけよ」
「儀式とは?」
「この炎のサークルの中心で燃え盛るツリーを尻目にマイムマイム的な踊りをする」
「するとどうなる?」
「クリスマスの朝にプレゼントがもらえる」
「そうか。外でやれ」
「こんな寒い夜にマダラ様を外に放置するだなんて人間のすることじゃないよ!」
「人んちの畳の上でキャンプファイヤーしようとしてるお前にだけは言われたくねぇよ!!」

 

*

 

「ねぇオビト。このチキンのはじっこ、マダラ様にお供えしてもいい?」
「え? (こいつ本気でサンタ信じてんのか)…………勝手にすれば? でもちゃんと後で片付けるんだぞ」
「ありがとう! ここちょっと焦げてたんだよね」
「お前」

 

「あ、そうだ。隣のおばさんからケーキもらってたんだった。しかも手作りだぜ手作り~。たまにお裾分けもらうけど、料理めっちゃ上手いんだよなぁあの人」
「本当だ、これすごく美味しそう! はじめてみた……何ていうケーキ?」
「えっと確かブッシュ? ドノエルだったか。俺も食うのはじめてだぜ。……2個もらってるけどどうする? お前の分、これも少しお供えするか?」
「いいよマダラ様死んでるし」
「お前」

 

*

 

 なんやかんや言いつつもクリスマスモードに飲み込まれていたのか夜通しふざけあっていたら、部屋の片付けもしないまま、電気も着けっぱなしでお互い寝落ちしてしまっていたらしい。重い頭を起こして伸びをする。垂れかけていたよだれを拭こうと頬に触れると、畳の目がびっしりと刻印されいるのが分かった。

「ほら見ろオビト! やっぱりサンタさんはいるんだぞ!」

 稀に見るきらきらとした笑顔で、緑のチャッカマンを振り回す彼女がいた。寝ぼけた頭で適当に相槌を打ちつつ、散らかりっぱなしの部屋の片付けをする。ふと、奴が行っていた儀式の珍妙なサークルの中心に供えられていたチキンのはじっこがどこにもないことに気付く。……?

「お前、そのチャッカマンどうした?」
「だーかーら、マダラ様からのプレゼントに決まってるじゃん!」

 もう一度サークルを見る。皿は真っ白である。

「……嘘だと言ってよバーニィ」

 

*

 

n年後

「そういえばジジイ、今日誕生日だろ」
「!」
「すごーいオビト、何で知ってんの? 僕たちですら忘れてたのに」
「つってもこんなところじゃプレゼントも何もないけどな。言っただけ」
「……」