名探偵だぞえ!

 イタチが連れて来た女を見て、俺は無意識に火遁の構えをとっていた。

「うちはの匂いがする」
「……それは俺、ではないんですか」
「いや違うね。イタチくんは甘い匂いがするんだけど……これは……嘘をついている味だぜ」
「舐めてもないのに匂いだけで味が分かるなんて……あなたの五感多少狂ってるんじゃないのか」
「褒めても何もでないよ」
「褒めてないですよ」

 多少どころかおかしいんだよ。こいつはおかしい。頭から足の先まで全てがおかしい。
 怪しい人物が境界に入り込んだとゼツから連絡があったのは数十分程前のことであった。が、その前から既に覚えの有り過ぎるチャクラの存在に俺は気付いていた。気付いていた上で、スルーをしていた。きっと気のせいだろうと、いくらなんでもあいつ如きがこんなところまで来るはずがないと、そう思っていたのだ。そう……思っていたかった。
 たいして忍術は強くなかった。体術はガイと特訓していた影響でそのへんの忍よりは遥かに上をいくだろう。だからといって、S級犯罪者が勢揃いしているこの場所に、無傷でたどり着くなどと……信じられるはずがない。

「チャッカマンさん、本当に暁に入るつもりですか」
「……今となってはうちは一族も君とサスケ君だけらしいじゃない。うちの一族も同じようなものだけどさ」
「……」
「うちはマダラに出会った時から、私達はうちはと共にあると決めたんだよ。……例えそれがどんな場所でもね」
「チャッカマンさん……」

 イタチ。まさかお前程の男がそんな言葉に絆されている訳ではないだろうな?よく見ろそいつの目を。声のトーンでシリアスな空気を醸しだそうとしてはいるようだが、目を見ろ。メラメラと燃えているだろう。つまりそういうことだよ。別に熱血キャラを演じている訳でもなく、ただ己の欲望をその目に映しているだけなのだ。こいつらは今も昔も自分達の暖をとることしか考えていない。うちはが滅亡しかけている今も尚、その数少ないうちはから(暖を)搾取しようという魂胆がこの目の中に燃えているんだよ。

「まぁまだ入るとは言ってないけど。ちょっとどんな感じなのか顔出してみようかなって」
「ここはそんな体験入部みたいな軽い感じで顔出せるところじゃないんですが」

 こうして影から二人を様子を伺っていると、俺の幼き日々が思い出されるようであった。何年かぶりに見た「あいつ」は最早「彼女」と表現するべき体格になってはいたが、その内から出るクソのような阿呆オーラは、暢気な声は、昔と何一つ変わってはいなかった。

「ところで、イタチ。さっきからその『嘘をついている』人間が近くからこっちを伺っていみたいなんだけど」
「ああ……気付いてたんですか」
「なんとなくなんだけど……女の勘ってやつかな」
「ガイさん譲りの野生の勘では」
「おいこら」

 あいつは俺が生きていることを知っている数少ない人間のうちの一人だ。下手な発言をされると困る。……チャッカマン如きに下手に出るのは癪だが。

「……バレてましたか。もしかして新メンバーかなぁと思って、それなら入る前に潰しとこうかと思ったんですけど」
「……トビか。その必要は、ないだろう。この人はただの一般人だ」
「あれれ~?でも部外者なら尚更始末しないといけませんよねぇ、イタチせんぱい?」

「あれれ~?っていう奴程信用しない方がいいよイタチくん。あれは見た目は子供頭脳は大人なんだから、黒の組織的には早めに始末しといた方がいいと思う」
「ここは暁ですよチャッカマンさん。……今真面目な話をしてるんです」
「私、黒幕は光彦だと思うんだけど」
「ちょっと。ちょっと黙っててくださいチャッカマンさん。あなたの命も関わってるんですよ」

 こいつ絶対、純黒の悪夢見たな?と俺とイタチが間にいるチャッカマンを白い目で見る。しかし当の本人はそんなのなんのそのといった様子で不思議そうに首を傾げていた。S級犯罪者に挟まれてこんな態度とれる人間が他にいるだろうか。

「トビ……君だっけ。ぶっちゃけ君から嘘の匂いっていうか、私の知り合いと同じ匂いがするんだけど」
「……い、いきなり何を言ってるんですかァ?」
「ちょっと火遁使ってみてくれない? 豪火球以外ね。火気検査するから」

 なんなんだその小銭持ってんだろちょっとジャンプしてみろよ、みたいな軽さは。今更過ぎるが、こいつら一族は火遁を崇拝しているくせに火遁に対する認識が軽くないだろうか。いくらうちはといえどもポンポン火遁出来るほど燃費は良くないんだが。

「ええ~ボク、火遁は使えないんですよ~」

 とりあえずこれでいいだろう。……と内心ほくそ笑んでいたが、視線をチャッカマンに向けた時、これでもかというほど目をガン開きにしてこちらを見ていて正直びびった。つーか気持ち悪っ!

「こ、これは……」
「イタチせんぱい?」
「彼女は……インスピレーションが働いた時、目つきが悪くなる事から『チャッカマン目つき悪っ!!』と言われているんだ……!」

イタチよ。そのセリフは最終的にお前が捕まるポジションだがそれでいいのか?若干息があってるのが謎すぎる。何なんだお前等。大体イタチよ、何で俺よりチャッカマンに詳しいんだよ。俺でも知らねーぞそんなこと。まるでチャッカマン博士だな。……チャッカマン博士とは?

「うち……トビの言葉から何かを感じ取ったんですか? チャッカマンさん。俺には皆目見当が……」

イタチ、さては貴様この状況を楽しんでいるな?

「本当に……火遁使えないの?」

 イタチの問いかけすら無視して、俺の、仮面の奥にある目をじっと見つめてきたものだから、不覚にも少しだけ固まってしまった。
 無知で無邪気で、生意気なあの目が、俺を刺すように鋭く、黙って見ている。嘘を吐くことに抵抗がある訳ではない。ここでこいつを消すことに抵抗がある訳でもない。ただ、今動けないのは、もしかすると――。

「えっ、あ、そう。……へぇ……マジか……その歳でまだ……プークスクス」
「火遁・爆風乱舞」

 特定されてるとかそんな訳がないだろ。