全てが灰になる

「寒い、寒いなぁ」

 先程からチラッチラッとこちらの様子を伺ってくる居候と極力目を合わせないようにして、漫画を読む。畳に寝転んだまま、視点は漫画だけに集中。今すごく良いところなのだ。主人公が悪の組織のリーダーとついに対面した燃えるシーン。俺の読みだとこいつは主人公の師匠の友達だった奴だと思う。作中では死んだことにになっているがきっとなんやかんやで生きていたに違いない。俺を舐めるなよ……。そんなことを思っていると、奴が徐に近付いているのがそちらを見ずとも気配で分かった。

「ねぇ、寒い。寒くない?」
「……うっせ」

 寝返りを打って奴から少し距離をとる。こいつが家に来てからというもの、一人の時間が極端に減った気がする。そして反比例してストレスは増えている気がする。俺は家にいながら地獄にいる。

「逆になんでオビト寒くないの? 皮下脂肪でもあるの?」
「ぶん殴るぞ」
「あーあ、こんな時におこたがあればなぁ」

 再びチラッチラッとわざとらしい視線がビシビシと刺さってくるが耐えろ俺。
 ふざけんなよ、と声を荒げたくなる気持ちをぐっと堪えた。この間片付けたばっかりなんだよ火燵。それこそお前が襲来してくる前日にな。火燵は人を駄目にする。元々駄目なこいつに火燵を与えればどうなることか。ただでさえ居候のくせに動きが鈍いし手先が不器用なのか家事だってろくにできないのに、火燵を与えてしまえば確実に、籠城する。二度と出て来ない。そこらへんの封印術よりきっと効果ある。それはそれでこちらとしては精神的に助かるのだがいかんせん電気代が死ぬ。代償があまりにも重過ぎるのだ。絶対に火燵だけは与えてはいけない。

「オビトォ……さ、寒い……マッチ、マッチを……」
「お前の大好きなチャッカマンでも使えよ。森でも何でも燃やしてこい。それで捕まって帰ってくんな」
「あれはここぞという時にしか使っちゃいけないって言われてるんだよ!」
「じゃあお前が毎日仏壇の前で使ってるのは何だ……」
「オビトんちのは普通のチャッカマンだからいいの」
「そうかよ……」

 もうまともに受け答えすることに疲れたので言い返すことを止めた。我ながら正しい判断だと思う。
 そういえば、こいつは居候でありながら俺の家の仏壇に1日2度、お参りをしている。基本的な常識がない割には、変なところで律儀な奴である。チャッカマン一族への謎が更に深まった。
 俺が構わなくなったことで暇になったのか、奴は何かを探してきょろきょろと辺りを見回した。少し気になったが、今!まさに漫画が最高に盛り上がっているところなのだ。やはり俺の読み通り敵のリーダーはあいつか……?とドキドキしながらその次のページに手をかける。最早チャッカマンなど知らん。何を聞かれてもスルーしようと決意した。

「……オビトんちって木造建築?」
「どうして見て分かるようなことをあえて聞いたのか俺に説明しろ」

スルー出来なかった。