炎の転入生

「今度、転入生が来るってよ、しかも女子」
「え、アカデミーに転入生とかあるのか。つーかそういうのどこから来るんだよ。他里か?」
「それは知らねぇけど……オビト嬉しくないのか? え? リン一筋ですってか?」
「ふっ……まぁな……。アスマこそ……紅がすごい目でこっち見てるけどいいのかよ」
「うわyabbe」
「焦りのあまり半角英数に」

 なんてことをアスマと話したその日の帰り、俺は家の前でとんでもない奴と出会った。何がとんでもないかというと、チャッカマン(点火済み)を振り回して、大きな声で、古臭い歌を歌っていることだ。なんかもう全てがおかしい。あんなアクティブな放火魔みたことない。

「だ~れだ、だれっだ~だ~れ~だ~おれだ~」
「……」
「お~れ~が噂の転校生~」

 そうか……お前が転校生なのか……。すごくピンポイントな自己紹介ありがとう、と思いつつ最早避けられない運命であることを知る。そもそも俺んちの門の前に奴が存在している時点でもう避けて通ることはできない。俺はこの時程、壁を通り抜けられたらなぁと思ったことはなかった。しかしそんなことは当然できるはずもなく、普通にその不審者と目が合ってしまった。

「ッハッ!! お前は誰だ、お前がうちはオビトか?!」
「俺は誰でもない、誰でもいたくないのさ……」
「うわ、なんかやばいのに話しかけてしまった……」
「俺の台詞だ馬鹿野郎」

 なんでお前が残念そうな顔してんだよ……。遠回しに関わりたくないって言ってんだよ……察せよ……。

 曰くやはり彼女こそが今度アカデミーに転入してくる生徒らしい。それはともかく、何故俺の家の前にいるのだろうか。それを問いただそうと思った瞬間、まるでタイミングを計ったように、何故か俺の家から親戚のおじさんが出てきた。何でも彼女はうちはと深い関わりのある一族の人間らしく、今度からうちの家で暮すそうだ。それは結構前から、それこそ俺の両親がまだ生きていた頃に大人達の間で、とうに決まっていたらしい。あの、俺何も聞いてねぇよ?
 ほんと勘弁して。女子と一つ屋根の下だなんて……リンに勘違いされたくないというか知り合いと思われなくない。……ダメだ、今度からクラスメイトだった、最悪だ。絶対に逃げられない。
 仲良くしてやれよ、と笑う親戚のおじさんと別れて、俺は一人心の内で嘆く。無理です。告白するけど初対面から無理でした。

「やっぱりお前がうちはオビトか」

 正直、リンと同じ女と思えないような口ぶりに俺のテンションはもうどん底であった。せめて、もうちょっと可愛ければな……。

「しっかし昔のアニメって何でこう誰だ、誰だ、誰だ~っていうのかな。デビルマンといいガッチャマンといいマジンガーといい」
「俺、漫画は読むけどアニメとかあんまり見ないから……」
「ああ、そうなの。ガッチャマンおすすめだよ」
「むしろお前なんでそんなに古いアニメばっかり知ってるんだよ」
「お祖母様の影響かな」

 聞くとこいつも両親を戦争で亡くしているらしかった。俺と同じ境遇なのは分かったが、なら猶更一緒にしないで欲しいんだが。大人が考えていることはよくわからねぇ。

「ところで、初めて聞いた名前だけどよ、本当にお前の一族ってうちはと関わりあるのか?」
「えっ知らないの!?」
「えっ」
「私の一族って、クソ絡みにくいことで有名なうちはと代々友好な関係を築いてきたってことで、超貴重な一族として有名なはずなのに……」
「おかしいな、すでにお前の一族との間に亀裂が入りそう」
「それは無いよ。だってあのうちはマダラとだって、私のお祖母様達は友好な関係だったらしいし。一族ぐるみで仲良いんだから」
「一族じゃねぇ……これはオレ等の問題だ」

 こめかみがぴくぴくとうずくのをなんとか抑え込む。うちはマダラがむかーし色々とやらかしてた面倒なじいさんってことは流石の俺でも理解しているが、それを抜きにしたってうちはを侮辱したような発言に穏やかでいられるはずがなかった。
 そんな俺を見て何を思ったか、「しょうがないなぁ」とわざとらしいため息をつきながら奴は懐から何かを取り出した。

「特別に見せてあげる。これが私の一族に伝わる伝説の武器――チャッカマンさ」
「……伝説って?」
「ああ!」
「……この際ガッチャマンにかけてるのかとかそういうクソテンプレートなことは聞かないけど、そもそもチャッカマンって忍具でもなんでもないだろ」
「何を言うか。これこそがうちはとの友好の証! あのうちはマダラからいただいた由緒正しきチャッカマンだよ」

由緒正しいチャッカマンって何だよ。チャッカマンはチャッカマンだろうが。

「何でも私の一族は昔から寒がりが多くてね。そこでうちは一族の火遁で暖をとるために傘下に下り、戦争にも大きく貢献したんだとか」
「お前たち一族にはプライドってもんがないのか。寒がり程度で……」
「お祖母様達曰く、うちはのおかげで随分暮らしやすくなったらしい。共存関係ってやつかな!うちはがいれば魚も焼けるしキャンプファイアーも出来るし、持ち運べる(移動してくれる)し、何より着火が早いし温度も高いから最高だったってお祖母様言ってた」
「うちは一族はチャッカマンじゃねぇ!!!! ……ハッ!」
「そう、炎が無いと生きていけない私達を哀れんだうちはマダラ様が、我が一族に与えてくれたのがこの――チャッカマンさ」
「つまりそれただ単に厄介払いじゃねぇか」

 絶対嘘だろ……。と話半分で聞いていたのだが、数年後これが事実であることを知るとは、この時のオレは思いもしなかった。

「オビト……その娘は」
「あー……成り行きで拾ってきちまった、……悪ィ」
「その、チャッカマンは……まさか」
「え?」